慶應義塾体育会航空部を代表して一言ご挨拶を申し上げます。
わが部の歴史は遠く昭和5年さかのぼり、来年平成22年には創部80年を迎える歴史を持ち、グライダースポーツにおいては慶應義塾を代表して広範囲な活動を行っております。具体的な活動状況などにつきましては別途記載のとおりですが、わが部の特質について述べてみたいと思います。
慶應義塾体育会には、“スポーツが与える3つの喜び”と言う訓えがあります。即ち、
- 練習を通じて不可能を可能にすると言う事を知ること。
- フェアープレーの精神を養うこと。
- 生涯を通じての友を得ること。
これは、小泉信三元塾長が遺された有名な言葉ですが、われわれ航空部こそこの3つを体現できる最適なクラブであると確信しています。具体的に申しますと、鳥のように大空を飛ぶことは古来からの人間の夢であり憧れでした。それが、現代においては航空機の発達により日常生活の中で、空を飛ぶこと自体は旅客機や小型の遊覧飛行機によってきわめて容易に体験することができます。しかし、あなたが今日、動力を使わずに“鳥のように”一人で自由に飛ぶと言うことは全く不可能なことです。しかしそれは航空部に参加し、部活動を通じて可能にすることができます。
具体的には、飛行訓練を部の所有する練習用グライダーを使用して、 インストラクター(航空機操縦教育証明という国家試験を合格して取得する資格を持った航空部OBか上級生で、現在わが部には、私以下実働約20名の指導者が居ります)がマンツーマンで指導します。ですからきわめて安全でしかも効率よく“飛び方”を習うことができ、 慶應の場合ですと、例えば1年生の春に入部すると夏休み中にはもう一人で飛べるようになります。
これをソロフライトと言いますが、初めて一人で空を飛んだときの感激は誰しも一生忘れられないものとなります。 その後、練習を続けるうちにだんだんと一人乗りの練習機での飛行する毎の滞空時間も長くなり、空を飛ぶことの楽しさがどんどんと増してゆきます。
上級生になるに従い、操縦できるグライダーもより上級なものとなり上昇気流を上手に使って自分の滑空場を遠く離れたところまでより高く、 遠くまで飛行できるようになります。いわゆる“クロスカントリーフライト(野外飛行)”の喜びが増すとともに、グライダースポーツの奥の深さを実感するようになります。
そして、部生活の集大成である全日本学生グライダー選手権大会、早慶戦、六大学戦などに出場し他大学の選手たちを相手に鍛えた技を競い、 勝利の女神を味方につけることにより“戦いに勝つ”すばらしい思いを経験することができます。幸いわが部は現在まで様々な対外試合においては全国一の戦績を有し、わが国の学生航空の頂点に立つことを最大の誇りとしています。その結果、卒業式において行われます小泉信三記念体育賞受賞の栄に毎年のように浴しています。 まさに、“不可能を可能にする”ことではありませんか。
地面を一歩でも離れればそこは自然界であり、自然のルールに従い自分で計画、判断、決断し自分で責任を取る事で世の中のごまかしや要領など全く通用しない言い訳のきかない世界ですで生きることになります。まさに、フェアープレーの精神を涵養するにはまたとない修行の場であると言えます。
航空部は、合宿での飛行訓練、競技大会や日常でのいろいろな部活動を通じ部員が一緒になって生活します。空中でマンツーマンで行う指導は、師弟のつながりを越えた心の通い合った密度の濃いものとなり、飛行を支えるための日ごろの部活動で苦楽をともにした仲間同士の友情はまさに生涯の友として、一生を通じての貴重な財産となります。平成世代だけでも約100名のOB,OGを輩出していますが、これらの先輩たちが熱く後輩たちに寄せる想いとともに、社会の各方面で活躍している姿もまた、他には類を見ない“航空部ファミリー”を形成する大きな要因となっています。
このように、航空部こそ慶應義塾の独立自尊の精神を学んだ“剛毅な精神をスマートな外観に包んだ真の意味での慶應義塾塾生(員)”たるを目指すにふさわしい場であると確信しています。
興味をもたれたら、是非当部の部員にコンタクトしてください。そして、一度われわれのグライダーで空を飛んでみてください。今までとは全く違った世界がそこにあると言うことを実感されるはずです。私たちは、それを共有できる仲間が一人でも増えるようにいつでもお待ちしています。
慶應義塾体育会航空部
最高顧問 吉田正克
平成21年4月1日